『POPEE the ぱフォーマー』は(大人げない)大人にこそ楽しめるアニメ
先日、Twitterを眺めていたら、とあるアニメの動画が流れてきました。
「これが子供向けで放送されていたとかヤバすぎwwww」といった文言に貼り付けられていたのがコレ。
(出典:POPEE the ぱフォーマー | キッズステーション 公式サイト)
『POPEE the ぱフォーマー』。
2000年の春(16年前!)からキッズステーションで放送されていたいわゆる子供向け・フルCGで制作されたアニメです。
このアニメに物語らしい物語はなく、
とあるサーカスの見習いクラウンの「ポピー(ピンクのウサギ耳)」と、なんだかよく分からない生き物である「ケダモノ」が、
サーカス芸を軸にブラック気味なユーモアを交えつつ展開するギャグアニメとなっています。
また、
- 1話あたり5分で、見るのに集中力がいらない(全39話)
- セリフらしいセリフがなく、身振りを見ていれば何をしようとしているか、何を言わんとしているかが大体わかる
と、子どもだけでなく、疲れた現代人にもおすすめ出来る優しい仕様になっています。
……なのですが、第一話の開始10秒でポピーが「人体切断マジック」と称してケダモノの体を箱に入れてチェーンソーで切断しにかかっている(しかも上半身と下半身がバラバラに)あたり、このアニメの持つブラックユーモアぶりが十全に発揮されていると言えるでしょう。
しかも、ポピーは切断したケダモノの身体を前後反対にくっつけた後に、影でその姿を大笑い、怒ったケダモノに追い回されて捕まり、自身もバラバラにされ、
ラストにはバラバラにされたことで分裂したポピーがケダモノを取り囲んでダンスをしだすというカオスぶり(何を言っているのか分からないと思いますが、とりあえず見てほしい)。
(出典:blog.a-files.jp)
チェーンソーのほかにもナイフ、爆弾、銃、バズーカをぶっ放すのはもちろん、流血シーンも普通にあり、深夜アニメにすら人体の切断面にモザイクがかかるようになった今だと子供向けの枠で放映するのは難しそうだなー……となる表現が多々見られます。
しかしながら、このアニメは単に子供向けと思えない子供向けであったり、グロ、狂気がみられるとか、そういうものとは別なものが見え隠れする作品でもあります。
・セリフなしアニメに見る、人の負の感情
ポピーはクラウン見習いということで、様々なサーカス芸の練習をするのですが、だいたい、ケダモノの方がなんでも上手くやってしまいます。
その様を見たポピーが、苛立ち、嫉妬をむき出しにしてケダモノに悪戯(ナイフや爆弾を投げつけるとか、火をつけるとか)を仕掛ける場面が多くみられます。
こうした行動を起こすポピーという少年は非常に身勝手で抑えの利かない人格に思えますが、裏を返せば、人間が表情の裏で隠しがちな負の感情をありのまま行動に起こせる、ということでもあり、どうしても負の感情を抑圧しなければならない社会生活を送る現実から見ると、ポピーの在り方は若干、羨ましくも思えます。
そうした、普通にドラマを作ればどろどろとしたテイストとなる負の感情を、あくまでもギャグタッチに、子供に対しても伝わるように描いているのは、「POPEE the ぱフォーマー」の魅力の根幹であると私には思えます。
・作品世界に滲み出る狂気
CGアニメはその質感からどうしても不気味の谷的・一歩外れると狂気的な印象を孕みがちなものですが、この「POPEE the ぱフォーマー」も期待を裏切りません。
この作品は「ヴォルフ・サーカス団」という場所を一応舞台としています。サーカス団であるからには当然、観客がいるものです。
そう、確かに観客がいることになっているのですが、その正体は壁面に描かれた落書き。
その落書きも、単に人間が描かれているではなく、子供の落書きと不良の落書きを足して2で割ったような、メチャクチャな絵が壁面に数多く描かれています。
また、恐ろしいのは、その落書きを単なる落書きとして片づけるのではなく、律儀にもキャラ紹介のページで「観客」として紹介しているあたりで、果たしてポピーたちが観客を観客としてみなしているかどうか……気になりますね。
また、この世界に出てくる車の存在もかなり奇異なものです。
「My car」という回では、ポピーの読む自動車の雑誌に車が1台で2500万円というべらぼうな数値が記されています。
その車というのもいわゆる高級車などでは全くなく、無機質な車体の全面になぜか動物の頭といった有機質がくっついて動くという奇妙な代物です。
なぜ、そんな機構になっているのか?
それはこの回を見ていくにつれて察することができます。
結論から言うと、
- 動物の頭をなんでも切って前方にくっつけると、何らかの動力が生まれて車になる
- 車のパーツにされた動物の頭は生きたまま
という仕様になっており、こうした点からも車の価格がやたら高い理由もうなずけます。
命を燃料にして動いているんですね、この世界の車は。
ほかの作品にも人間を動力として動く機械、というモチーフは多く見られますが、やはり何度見てもこういうものはゾッとするものがあります。
・向いているのは、少しでも見て乾いた笑いが出た人
ここまでポピーをほめちぎってきましたが、当然、人には向き不向きというものがあります。
使われている表現も人によっては目を覆いたくなったり、糾弾したくなったりすることが予想されるものがあるので、向いている人にこそ、この作品を勧めたい。
多少のブラックなユーモアを許容できる人、人間の醜い部分をどんな形であれ受け入れられるような人であったら、この作品を見て笑って済ませられるのではないかと思っています。
「ああ、そこ嫉妬しちゃうよね。で、あぁ、爆弾投げるのね」的な。
大人げない行動を起こしてしまうポピーにわずかでも同意してしまう、大人げない大人。
そんな人にこそ、この作品を見てもらいたい。