徒然すぎて草。

君に顔はいらない。

4人目の女

事の始まりは、年末のクイーン特集の番組でフレディ・マーキュリーゾロアスター教徒であったことを知ったことだった。

 

「あっ、『ボヘミアンラプソディー』観たいかもしれない」

 

我ながらゲンキンなものである。それまでミーハーだと思い、視界にすら入れようと思わなかった映画を、たったこれだけの情報から見たいと思ってしまうのだから。

興味の向くきっかけがゾロアスター教でいいのか? と思わなくもないが、ゾロアスター教はそれ自体が他の宗教に与えた影響は数多いものの(キリスト教に見られる「最後の審判」などはその典型だ)、今ではその信徒が非常に少ない宗教だ。

ましてや、フレディ・マーキュリーがその信徒とあっては、心躍るのも無理はなかろう。

 

そんな頃、私のtinderのアカウントで一つのマッチが成立していることに気が付いた。

2枚目の眼鏡をかけた画像が実に可愛らしい。人間という生物は基本的に写真写りが悪いもので、写真よりも実物の方が見られるという性質があると私は信じていたので、このマッチに一縷の望みをかけることにした。

そして、私は思った。

「どうせなら女の子と映画を見に行きたい」

そう思った私の行動は速かった。

 

「はじめまして! 眼鏡似合いますね!」

「映画とか好きですか?」

 

そんなメッセージを送って半日が経った頃、相手から返事が来た。

 

「好きですよ! 友達とよく観に行ったりします!」

「最近は何の作品を見ましたか?」

 

ああ、何たる恐ろしい問いかけだろうか。私はひどく戦慄した。

最近は何の作品を見たか。それに答えるのは容易い。つい2週間ほど前に観に行ったばかりだからだ。

しかし、「仮面ライダーの映画を観に行ってました!」と答えるのはあまりにも筋が悪い。

あの映画は確かに面白かった。特撮に限らずあらゆるフィクション作品が虚構に過ぎない、しかし忘れない者がいる限り、その作品は永久のモノになる。素晴らしいメッセージ性だ。私のようなコンレボクラスタにはたまらない。

だが、初対面に近い女の子にそれが通用するかは話が別だ。絶対に微妙な雰囲気になる。マッチングアプリは相手から返信が来なければそこで試合終了だ。

その前に観た作品は何だったか。これも思い出せる。

「ANEMONE エウレカセブン ハイエボリューション」

違う! そうじゃない!

エウレカセブンに造詣のある女の子なんて滅多にいるものかよ。

ANEMONEは確かに良作だったし、「エヴァQっぽかった~!」と言っている脳味噌がスカブで出来ているような輩にはバスクード・クライシスを食らわせてやりたい手合いであるが、私の思い入れと世界の認識は別の話だ。

 

遂に困った私は苦し紛れの選択をした。

「友達との付き合いでアネモネって作品を見に行きました!」

なんということだろう。私に一緒に映画を観に行く友達はいないというのに。

流石にこれだけのメッセージだと、相手の方もスン……となることが容易に予想できたので、「ボヘミアン・ラプソディーはもう見ました?」みたいなことも添えて送った。

すると、「実は友達と観に行っちゃって……」と返ってきた。

ちくしょう、なんて日だ。

そんなこんなで私自身はあまり興味がなかったファンタスティックビーストを観に行く約束が成立した。

 

ところで、出会い系やマッチングアプリをやる上で忘れてはならない点があるのを、あなたはご存じだろうか。

それは、こうしたサイトやアプリを使う女性は「量子力学的な性質」を持っているという点だ。

かつて物理学者がシュレーディンガーを揶揄した猫箱の逸話のごとく、女性たちは実際に会うまでその実在が確定しない。

我々がその姿を認識して初めて、その女性はこの世界に「在った」ことになるのである。

要するに、「すっぽかされる」ということだ。

 

アポ当日までの数日間、

ブックオフで買った「ツァラトゥストラはかく語りき」を夜に読み、

昼に暇さえあればゲーセンに通って「星と翼のパラドクス」をプレイしながら、

すっぽかしの恐怖と戦っていた。

おかげで星と翼のパラドクスの方は階級が星3まで伸びた。

仮に相手の実在が確定しないからといって、手を抜く試合があるかといえばそうではない。

映画を観に行く約束をして、映画を観るだけの解散ではあまりに味気ない。

冴えた計画が必要だ。

映画が上映するタイミングは押さえた。行く予定のカフェも押さえた。

諸々のイメージを固める……。

後は当日の決戦に臨むだけ。……そう思っていた。

 

一つの凶兆は、「ブギーポップは笑わない」の冒頭5分を見ている時に訪れた。

このアニメは竹田という少年が、宮下という女の子とのデートの約束をすっぽかされるところから始まる。

観ている間、これまでにすっぽかされた経験が川のようにフラッシュバックしてきて身悶えした。

 

凶兆は、もう1つ訪れた。

それは、星と翼のパラドクスを6日ぶりにやった帰りの夜のことだ。

ちょうど、アポの前日だった。

なんだか胃の調子が悪い。気分が悪い。軽く吐き気すらする。

 

そして当日。

崩れた体調は戻ることがなかったが、幸い咳はなく、感染すタイプの体調不良ではなかろうと考えた私は、身を襲う寒さが外気温故なのか、体調故なのか区別もつかないまま待ち合わせ場所へ向かった。

すると、待ち合わせ時間にもなろう頃、相手から一つのメッセージが届けられた。

 

「すみません! 今起きました!」

 

一瞬、あまりにも体調が悪くて読み間違えたかと思った。

だが、何度読み返しても書かれている事実は変わらない。

そして、突きつけられた現実に眩暈がした。

だが、続いて送られてからメッセージを読む限り、来る気はあるらしい。

来ると言っておいてすっぽかされた経験がある身としては、落ち着いてお洒落をして無事に会いに来てくれと願うばかりである。

 

そうして、代わりのカフェを探し、予定の時間まで待つこと2時間、ついにその時は訪れた。

 

「あの、もしかして風見さんですか?」

 

来た、見た、勝った。

 

嬉しさのあまり、「来てくれてありがとう! 7回約束したら5回はすっぽかされるから嬉しいよ!」と余計なことを口走る始末だった。

今回入ったのは新宿三丁目のcafe AALIYAというフレンチトーストが売りの店だ。

ランチはフレンチトーストとドリンクにスープもしくはサラダがついて1000円でお釣りが来るという良心設計で、味もなかなかに良い。そのためか、店はとても繁盛しているようだった。

惜しむらくは、互いに胃腸の調子が悪くてあまり食べ進められなかったことだが。病んだハラワタにフレンチトーストは鉛のような重さだった。

 

その後は、適当に仕事や学生時代に何の研究をしてたか、恋バナなどを聞きつつ、カラオケに行って解散した。

正直、少しやらしい雰囲気に持って行きたくはあったが、これ以上の欲をかけば吐く気がしたので大人しくすることにした。

 

今回を思い返すと、良かった点、悪かった点がまあまあある気がする。

良かった点

・手軽な話題ですぐにアポへ結びつけられたこと(これは運)

・相手の遅刻も事前のリサーチの延長で対応できたこと

・相手が知っている、普段やっていることに対して、自分も知っている部分があり、話が広がったこと

 

悪かった点

・体調があまりに悪く、やや消極的になってしまった

・信頼関係を構築するための会話がややぎこちなかった

・完璧主義が顔を出してしまい、ある程度のリスクが取れなかった

 

次の機会があれば、この辺りを踏まえて行動を調整しようと思う。

 

それにしても今回のことを思うと、この手のアプリは実際に会うまで、心が折れないことがモノを言い、

会ってからは事前の準備や知識の下地がモノを言うのだと思う。

 

この記事を読んだあなたにも楽しみがありますように。

それでは!