徒然すぎて草。

ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん

高校の同期が結婚した中、tinderでマッチした女と会った時の話。

 

 

式場にて

 

先日、高校の同期の結婚式があった。

新郎となった同期が真っ白なスーツを着て、身を固くしてチャペルを歩いている姿は、とても印象的であると共に、人間の幸福の一つの形であろうと思わされた。

エスの名を唱える讃美歌を歌いながらふと思う。

我が身を振り返れば近くに女の影はなく、ゲーセンに行って隣のサブモニターを見るとそこには星翼のヒカリちゃんがいるのだが、彼女は遠い宇宙の巡星にいるので永遠に引き合うことはない。

次元という名の残酷な天の川に我が身と心は焼かれ、それが癒えることはない。

魂はますます歪むばかりである。

一体いつからこんな差がついた?

歪みに歪んだ私の魂は、晴れの席においてすら、結婚生活という名の遠い地平へ飛び立った友の背中を見て思考を反復する。

思い返してみれば、その友が今年の夏に結婚報告をしている最中、私は出会い系で知り合った女と人生初のデートの約束をしていた。

一周遅れてのスタートを切っているなら仕方がない。この状態で彼に追いつくには最早偽装結婚でもするしかない。しかし相手がいない。

 

披露宴もたけなわという頃、一人の同期が私に聞いた。

 

 

と、いうわけで今回は新しく会った人について書き記していきたい。

 

アポ調整編

 

事の始まりは、友人の結婚式から2週間ほど前、向こう(かすみさん、とでもしよう)の方からtinderでメッセージが飛んできたことだった。

 

かすみさん「こんにちわー! はじめまして。お話しましょ♪」

 

最初見た時、正直言ってパパ活女かマルチ女かな? と思った。

こういうマッチングアプリで積極的にメッセージを送ってくるのは大抵、素人でない女ばかりだからだ。

だが、恐れていては何も始まらない。このメッセージの向こうにいるのはただ、気さくなだけの女の子かもしれない。

私はそんなことを祈るように考えながら、返事を打った。

まずは、他愛もない仕事の話。お互いにどんなことをしているかをざっくり言う。

どうやら、かすみさんはいわゆる理学療法士、リハビリの専門職に就いているらしい。

これまで児童養護施設の職員、イベント関係、SEと会ってきたが、医療系の人間は初めてだ。これは是非とも会って話を聞いてみたい。

そろそろお茶にでも誘ってもよさそうだな、というところで誘いのメッセージを入れる。

雰囲気も悪くなかったしイケるでしょ、などと余裕をこいていたら、なんと返事がぱったりと止んだ。

私は大して驚かなかった。今まで何度も歩んできた道だ。

返事が来ないということは、脈がないということに他ならない。

この案件はスッパリと諦めて、友人の結婚式に晴れ晴れと参列しようじゃないか、などと思っていたら、式の2日前に突然メッセージが飛んできた。

 

かすみさん「お茶しましょ♪」

 

そんなことあるんだなー、と思いながら爆速で予定を決める。何事も速さが大事だ。

かつて、私の連れの女をダーツへ攫っていった外国人が教えてくれた大切なことである。

 

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予定日は、シフト制で休みが不規則な彼女に合わせ、平日の夜にセット。

店もすぐに決め、待ち合わせ場所はその店の前ということにした。

私はその日の仕事を早く終わらせる覚悟を決める。完璧な計画だった。

 

 待ち合わせ編

 

待ち合わせ当日。

覚悟を決めた通り、私はいつもより1時間近く早く出勤し、かつてないほどの速さで仕事を終わらせると、風のような走りで渋谷へ急いだ。

待ち合わせ15分前。かすみさんからメッセージが飛んできた。

 

かすみさん「渋谷駅で待ち合わせしましょ」

 

私は即座に思う。

ははん、コレは会った後に理由をつけて店を変え、そこに女の子の「上司」が待ち構えているやつだな?

tinderに生息する女子のうち半数を占めるという、マルチ系によく見られるという挙動だ。

だが、会わないことには白黒つけられない。

乗るところまで乗ってやろうじゃないか。

私はすぐさま承諾の意を示し、約束の時間を待った。

が、来ない。メッセージの返事もない。

よくあるすっぽかしのパターンだ、と思った私はすぐさま、最寄りのゲーセンに行って星翼をプレイし、終わったらケバブでも食って帰ろうと考えた。

そうして1クレジットが終わった頃、アプリを開くとメッセージが飛んできていた。

 

かすみさん「ハチ公前広場で待ってますね。ベージュのコートに赤いリュックです!」

 

なんと本当に来ているらしい。本当か?

ゲーセンを切り上げ、すぐさまハチ公前へ向かう。

しかし、辺りを見渡しても、かすみさんと思しき影は見当たらない。

というよりも、ハチ公前広場は人が多すぎて、そもそも待ち合わせには向かないのだ。

白目を剥くような思いで天を仰ぐと、脳裏にはかつて読んだ聖書の一節が浮かんでくる。

 

エリ、エリ、レマ、サバクタニ

(神よ、神よ、なぜ私を見捨てるのですか)

 

見つからないんですが……と泣きのメッセを送ると、「どこだろーw」と返ってきた。

 

素直に一発、引っ叩いてやりたいなと思った。

 

その後、探し続けること5分、遠目に嘲笑われているのだろうな、と嫌気がさしてきた頃、確かにベージュのコートに赤いリュックを背負った女の姿を見つけた。

かすみさんですか? と問うと、そうです、との返事。

すっぽかされずに済んだ瞬間だった。

 

夜パフェ専門店にて

 

今回、アポに使ったのは、渋谷道玄坂にある「夜パフェ専門店 パフェテリア ベル」という店だった。

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ここは前にマルチっぽい女と会った際に、向こうからの提案で入った店である。

店内は適度な明るさ・薄暗さで、距離を詰めるのにも便利なカウンター席がある。

今回は相手が来る確証がなかったので予約はしなかったが、

もし、相手が来ることが確信できるのなら、カウンター席を予約しておいてもいいだろう。

そして何より、ここのパフェは季節のフルーツをさまざまな形で楽しませてくれる。

私が頼んだのは、苺と桜、日本酒を素材にしたパフェだった。

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甘みが強めの苺に抹茶風味のラングドシャ、酒を固めたゼラチンの飾りに、塩漬けの桜の葉を焼き菓子にしたもの。

こんな調理の仕方があるのかと驚かされるばかりである。

 

理学療法士女子との会話

 

店について早々、「こういう感じで会うのは初めて?」と聞かれた。私が何も考えずに、「君で5人目かな」と答えると、一瞬、何とも言えない空気になった。

冷静に考えて、会った女の数とそれぞれの職業を覚えているのは、シリアルキラーみがあって自分でもちょっと怖い。

彼女自身は、そこそこマッチングアプリ経由で会ったことがあるらしく、その他にも、友人の伝手で知り合った人間と会うなど、交友関係はそれなりに広いらしかった。

 

話すところによると、かすみさんは理学療法士としてのキャリアを積むために、そういう系統専門の病院が多い東京の方へ越してきたらしい。

理学療法士を志したきっかけを問うと、かつて、スポーツをやっていた頃にリハビリを受けることとなり、そうした経験から自分もそういう仕事がしたいと思った、とのことだった。

本人は「ありがちな話」と言って笑っていたが、そういうありがちな話こそ、物語性があると私は思った。

 

夢叶って理学療法士の職についた彼女だったが、やはりどこの世界にも不満というものはあるらしい。

新人は毎年入ってくるが、教育体制は脆く、彼らに対する上の人間の態度は挨拶もロクに返さない等、非常に冷淡。

新人であるからには教育しなければならない。だが、ノウハウを知る上の人間は忙しいので時間が取れない。

そのため、教育は必然的に「先輩」となった職員の仕事になる。

だが、そうした体質が連綿と受け継がれてきた「先輩」職員の教育であるから、十分なモノとは言い難い。

仕事は多く、残業せずに終わらせることは困難だが、残業代がつくことは殆どない。

残業せざるを得ない際には、「自己学習」の時間を取る旨の書類を求められる。

職場には不倫が蔓延し、トップの人間ですらそうなっているのは公然の秘密。

そんな人間を尊敬することは当然出来ない、と彼女は語った。

 

彼女の展望

 

話を聞いていると、かすみさんはふと、こんなことを言いだした。

 

「夢リストって、書いたことある?」

 

私の脳内にアラートが鳴り始めるのは刹那にも満たなかった。

伊吹マヤの声が私に告げる。

 

「パターン、夢! マルチ女です!」

 

だが、私はこうも思い直す。疑心暗鬼はよくないと、今日学んだばかりじゃないか。

夢リストじゃなくて、デュエリストの聞き間違いかもしれない。

だが、何度聞いた言葉を反芻しても夢リストにしかならない。

そんな私の身構えにも構わず、かすみさんは話を続ける。

 

「友達がね、夢リスト書いてみろ、って言ったの。その時、わたし20個も書けなくって。『タンス買いたい』なんて書いたりもしたのにだよ?

 で、友達が言うの。『それはね、かすみが今自分が置かれている枠でしかモノを考えていないから。思考の枠が狭いからだよ』って。

 わたし、なるほどなぁ、って思って。自分の人生見つめ直してみようと思ったの。今だったら100書けるかな(笑)」

 

そう語る彼女の顔はとても晴れ晴れとしていた。

私はずっと、新興宗教の勧誘で聞いたことある台詞だな、と思っていた。

新興宗教やマルチの誘い文句にはアーキタイプがある。

何か精神的・経済的な領域において自分が劣っており、しかし気構えで世界が開ける、世界が開いたら自分たちと一緒に、他の迷える人を誘って行こう、というロジックが組み込まれている。

何かに「目覚め」てしまった人間は、それまで見ていたモノは「夢・嘘」でしかなくなるから、「目覚めていない」人間の言葉が通じることはない。

私は、彼女が喋りたいように喋らせることにした。

どうやら、彼女は「人生を充実させたい」という願望がとても強くあるらしく、経済的・職業的な成功とプライベートの成功をバランスよく配合することを至高としていた。

かつ、老いてなお仕事をしなければならない境遇になることを恐れていた。

 

「スーパーで働いているお爺さんとか見ていて、ああはなりたくないな、って思うの。あの人たち、たぶん若いころにその場の欲に負けて、何も考えずに生きていたからそうなったんじゃないかな。私はそうなりたくないし、そうならないように努力しようと思ってる」

 

 自己責任論の病理だなぁ、と聞いていて思った。私は答えた。

 

「うんうん。そういう人もいるよね、きっと。かすみさんはちゃんとしてる。でも、少し思うのは、人間って意外と自分の欲には案外自覚的じゃなくて、漠然とした不安を抱えながら、しかし有効な手立ても打てず、気づけばどうしようもない位置に追い込まれて、惨めに死んでいくものじゃないかな、って思うよ」

 

ケラケラ笑いながら言う私に、かすみさんは「そうかも……」と頷き、続けた。

 

「私、転職するんだ」

「へえ、友達にビジネスでも誘われたの?(※マルチに引っかかったかどうかのカマかけ)」

「?(きょとんとして) 単純にもっと条件のいい職場の病院を探すだけだよ?」

 

ごめんごめん、と言いながら私は、疑心暗鬼はよくないな、と反省した。

かすみさんは笑って言った。

 

「なんか私だけずっと喋っちゃった。こういう真面目なこと話せる人、あんまりいないんだよね」

 

初めて会った、偽名を使っている男を随分と買ってくれたものだな、と思った。

「聞いていてとてもタメになるし、面白いよ」

そう言って、私は笑った。

 

振り返りと今後の方向性への思案

 

今回のことを振り返ると、やれていたことと出来なかったことが明白だった。

やれていたことは以下の通り。

  • 自分の話・存在に興味を持たせる。
  • 自身の将来に関する不安を自然に語らせるほどの信用を得た。

 

出来なかったことは以下の通り。

  • 恋愛関連の話

これまではこの手の話を差し込み、深い関係を模索しようとしていたのだが、会話の主導権を向こうに握らせすぎたきらいがあった。

今回に関しては、その手の話が全くできなかったのだ。

思えば、話の冒頭でのマッチングアプリを使う動機についてと、職場の不倫の話が出てきたときに、そっちの方向へ舵を切ってもよかったのかもしれない。

 

これまで会ってきた人たち(といってもたったの5人だが)との会話を思い出すと、将来への展望や不安を語ってくるパターンが多かった。

こちらから意図的に聞き出そうとしているのはあるにせよ、この領域に関しては全く違和感なく聞けていると思っている。

女の子の方からも、「君はそういう話をしやすい雰囲気」と言われた。

 

また、最近職場で言われるのは、私はどうやら観察眼に優れているらしく、私が当然のことのように見て、気づいたこと・覚えていたことを他人に言うと、時折怖がられる。

これらのことから思うに、観察した内容から結論を導き出すロジックや種を増やしていき、相手から受け取った内容をもとに欲しているものを導き出すことが出来るようになれば、私はもっと別の何かになれるのではなかろうか。

おそらく、その「成った」ものに名前はない。

私は、何者にも成らないというより、成れないという予感があるが、それは時折、「何かであることは間違いないが、名付けようがない」存在なのではないかと思う。

であるならば、それは「私」以外の何者でもない。

そうなりたいと、私は思う。

 

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