徒然すぎて草。

ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん

慕情の擦り切れ

季節の挨拶

桜の花もとっくに散り、青葉が繁ろうとする頃となった。皆様はいかがお過ごしだろうか。

私は前回の失敗から懲りることなく、流れ来る画像を左から右へスワイプし続ける日々を送り、7人目の女性と会うことと相成った。

↓面白おかしい前回の失敗はこちら↓ 

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※精神的自傷は昂揚を伴う麻薬である。 

 

「いっさいの価値はすでに創られてしまっている、――いっさいの価値――それはこのわたしなのだ。まことに、もはや『われは欲す』などはあってはならない!」こう竜は言う。

――ニーチェ著 氷上英廣訳 『ツァラトゥストラはこう言った(上)』(岩波文庫、1967)(p.39)

 

酒のグラスに水を差す余計なものはうち滅ぼさなくてはならない。

余計なもの、それはすなわち翌日の仕事の心配と、罪と恥の意識である。

 

アポの調整

 今回会った人――ミサキさんとでもしよう――とマッチしたのは、前回会った人と実際に会う直前くらいの時期だった気がする。

美術や旅行や花が好きだというので、画像の一覧にあったネモフィラのことに触れつつ、自らも花が好きなのだと語って話を広げた。

 彼女は「男の人で花が好きって珍しいですね!」と言いながら、百合や薔薇が好きなのだと言って、私は藤や椿が好きなのだと語った。椿の華やかに咲き誇り、あっけなく首を落として朽ちていく様に、九相図めいたものを感じるのは私だけだろうか。

初めのうちは、どこの花が綺麗でおススメだとか、美術館とか芸術家は誰が好きだとか、そんなことを話した。おススメされた場所や花は必ず調べ、彼女がモネの作品を好きだというので、Appleのブックアプリに並んでいた無料の作品解説集を暇なときに読んだりした。

結局、人間が他者に対して安心と興味を覚えるのは共通点が一番手っ取り早いのである。

3,4通、メッセージをやり取りしている内に、これは日程さえ合えば会えるな、という確信めいたものを感じ、お茶でもしませんか、という誘いは簡単に日程調整へと収束した。

問題は会うまでの日数だった。2週間後である。

そのあまりの長さに私は頭を抱えた。人間の記憶などアテにならないから、最低でも1日~2日に一度はやり取りをするくらいしないとそのまま自然消滅ということもありかねない。

幸い、日程調整をする中で薬学の方面で就活中だということを把握していたので、私はそちらで話を続けることにした。

とは言え、通り一辺倒のことを聞いても仕方ないので、キャリタス薬学部をGoogle検索し、薬学部生にどのような進路があるものなのかを調べることにした。

すると、どうやら薬局だけでなく治験関連の職に就くこともあるらしい、治験と一言で言ってもデータ分析やら折衝やら、役割は多岐に渡るということが分かり、どんなジャンルに進むのか、と話を広げることにした。

すると、彼女は「調べてくださったんですね! 驚きました」といたく感動していた様子であったが、こちらの心境としては、女に取り入るためならキャリタス就活を調べるくらい何の苦労もない。完全に「ん? 当たり前に肉を両面焼いただけだが?」という異世界転生モノ主人公の領域である。

そうして、会うまでの2週間までの間、就活に疲れるミサキさんを励まし続け、ついに約束の日を迎えるに至ったのだった。

 

よくあるトラブル

嫌な予感はその日の朝からあった。

関東は全域で夜に雨の予報。おいおい勘弁してくれと思いながらも、浮足立って仕事へ行って早くも夕方。そんな不安を見透かしたように、ミサキさんから一つの知らせがあった。

お互いに使う路線が人身事故で大幅に遅れているという。嘘だと信じたかったが、Yahoo!路線も非情な現実を突きつけてきたのでこれはいよいよ信じるしかない。

ともかく言い出しっぺの私が遅れるわけにはいかないので、定時きっかりにオフィスを出て、ロクに電車も来ないので人でごった返したプラットフォームに滑り込む。

そんなこんなで私は何の問題もなく集合場所の恵比寿の駅に着いたわけだが、ミサキさんは遅れるのが確定しており、私は冷たい風が吹く中を待ち続けた。そうしていると、アポをすっぽかされた時の苦い思い出が蘇ってきて、非常に辛くなったので無に徹することにした。

3,40分程経っただろうか、無になり切れず、騙されていると考えた方が気が楽だな、と思い始めた頃、写真で見覚えのある影が視界に映った。

ミサキさんだ。

遅れてすみません、と申し訳なさそうにする彼女の顔立ちは整っていて、美人だな、と思った。

 

酔えないBAR

もう正直言って何人と会ったかも記憶が曖昧になりかけており、自分がただ単にヤリたいだけなのか、そうじゃなのか、自分の取るべき行動は何なのか、全てがちぐはぐになっていてとても辛い。

選んだのは恵比寿にあるバーの、カウンター席だった。大仰な看板などなく、知る人ぞ知る、といった佇まい。店内は写真で見た通り薄暗い感じで、人も多すぎず、いいムードであった。

最初にするのは身の上話だ。

就活は上手くいっているのか、将来どういう風な働き方を目指しているのか、考え方、そうしたものを興味深そうに聞いていき、上手くいくよ、いくといいね、と肯定する。

ミサキさんは言った。

「いろんな人と会ったけど専攻まで聞かれたの初めて。皆、そういう勉強的な話は聞きたがらないんですよね」

そういうものなのだろうか。他人の学んでいることを聞くのは面白いものだと思うのだが。私にもいつか、そういった領域を聞くことにも興味が失せる日が来るのだろうか、と恐怖まじりに思う。

また、話の中でガールズバーでバイトをしている、という情報も出てきた。一番のクソ客はどんなタイプ、と聞いたら、「店員を貶すために金を払っているタイプ」と言っていた。ちなみに、こういう客が来たら嬉しい、というタイプはそんなにないらしい。世の中そんなものだ。

 

会った人数が6人だか7人にもなると、身の上話から恋愛話に持っていくタイミングというのもなんとなく分かってくる。話し始めて1時間とちょっと経ったくらいに、そうした恋愛関係の話に舵を切った。自分では全く違和感を感じないくらいにその方面へ舵を切れたものと自負していたが、問題はその先だった。

全く、いわゆる下ネタ的なものを差し込む気になれなかった。こうして出会った人とどんな感じになった? などと聞いた時、「え?」という反応をされたことに耐えられなくなった。

酒の度数が高いが量が少ないので酔えず、カウンターの向こうにいるバーテンダーの存在が気になり、果ては明日の仕事のことまで気になった。

妙に頭が冴えてしまう。しまいには、もしキスでもしてうっかり彼女の歯列矯正器具にでも歯を当ててしまったら、地獄のような痛みなのではないか、などと考えるようになってしまった。

グダった。あまりにも典型的なグダり方だった。結局、3時間はいたのではなかろうかと思う。今日は何をしに来たのだっけ、と思いながら会計を済ませた。店を出ると雨が降っていて、お互い傘を差すので手を繋ごうとするどころの騒ぎではない。相合傘でもすりゃいいだろう、とお思いかもしれないが、そんなムードでも全くなかった。

 

後日談

そんなものはない。ライン交換までは漕ぎつけたが、既読スルーである。

向こうも3時間使って何もしない男の相手など、暇つぶしに付き合うには退屈であろう。

前回もそうだったが、明日のことなどを思うと全く集中できない。もちろん、女性と深く関わるのを諦めて翌朝の仕事のことを考えました! などといって会社が評価してくれることなどない。

結局のところ私は踏み切れもせずチャンスを逃した臆病者に過ぎず、人間的に強くなったわけでもない。

頭の中に住まう竜が鱗を光らせて私に吼える。私の抱いている欲望や想像する幸福は正しいものか? 人を傷つけるものではないか?

これまで竜の鱗にある「汝なすべし」に従い、思いを巡らし、慎んできたように思う。少なくともそう思っている。だが、それが私の幸福にとって少しでも足しになったのだろうか?

否だ。何の役にも立たなかった。誰も、私の隣にはいなかった。

だから、私は自分の主を私自身と定めて、私の欲や望みを肯定しなくてはならない。どうせ、この道を進んだ時点で口にしなかった葡萄を酸っぱいものだと決めつけ、諦めるという選択肢はないのだから。

 

これから

私の失敗した原因は何だろう、と考えた時に、一つ思い当たったのは、会ってくれた人に嫌われたくない、と思っていることだった。

私と気の合う人はとても少ない。だが、それがどうしたというのだろう。どうせ多くの人間は妥協した相手と隣り合わせにいるのだし、私もそうすればいいだけの話である。

寄せ来る画像を左から右に送れ。

マッチしたらbioを見る。

趣味が合いそうなら共通点があるものと見せかける。

目ぼしい情報がなければ写真にある服を褒める。

顔が好みかどうかはこの際どうでもいい。

だんだん、迷いがなくなってきた。慣れてきたのだ。

心が冷えてきて、私は恋愛をしているのではなく、狩りの真似事をしているのだな、と思うようになった。なら迷うことはない。獲物の気持ちになって追い立てる狩人はいても、獲物の痛みを思って銃を下げる狩人はいないからだ。

 

街中を歩くと、二人連れをよく見る。

あの二人は互いの何がいいと思って一緒にいるのだろう。恋愛をしているのだろうな、と思う。

私にも出来るだろうか。

いやいや、でもさ。

それをやろうとして、こんなにメンタルがゴミになったんじゃん。