徒然すぎて草。

ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん

24歳社会人が童貞を捨てるまでとその後

 季節の挨拶

夏の空気から湿気が抜け、徐々に秋の足音が近づいてきた中、皆様はいかがお過ごしだろうか。

蝉に変わり様々な虫が鳴くようになった今、夏のことを振り返ってみるのも悪くない。

否、私は振り返らなければならないのだ。

学生時代に大人の階段を昇ることなく、目の死んだ社会人になって3年目という私が、童貞を捨てたこの夏のことを。

つまるところ、この記事は「初体験レポ」というものになるのだが、正直な話をしよう、私はこれを書くのに迷いがあった。

なぜなら、私は「彼女」なる概念を連れ立って童貞を捨てたのだ。

私の破綻した人間性に残った一片の良心が、他と違った関係性になった彼女に関連する事柄をインターネットに放つのをためらっていた。

だが、私は知っていた。

全ての物事には始まりがあり、終わりがあるということを。

つらつらと言葉を並べたが、勘のいい諸氏なら既にお分かりであろう。

 

秋にして既に別れ、同時に咎める良心とも別れを告げた。

これで心置きなくブログ記事に出来る。

さぁ、いってみよう。 

 

ファーストコンタクト/マッチング

「彼女」とマッチしたのは5月のことだ。

その頃はtinderの所作にもだいぶ慣れ、4人ほどと並行してやり取りをし、アポまで持っていくような日々を送っていた。

↓の記事の女性と同じくらいの時期にアポを取り付けたのだが、タッチの差で「彼女」の方が後になった。 

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当時、上野の美術館でグスタフ・クリムトの展覧会をやっていることを知っていた私は、あわよくば女性と一緒に行けたらな、などと夢想していた。

そんな中、マッチした「彼女」のプロフィールには、クリムト展の文字があった。

正直、1枚目に使われていた画質の荒い写真にある顔はあまりタイプではないかもしれないな、と思ったが、今まで何人かと会ってきた経験から言って、直に見れば可愛いとか美人に見えるという話は十分にあり得る。

私は迷う間もなく、「彼女」とやり取りを始めることにした。

やり取りの内容は、クリムトの絵のどういうところが好きか、みたいな感じで始めたと記憶している。

4往復くらいクリムト展の話題だけでやり取りをした頃、私はこんな事を思った。

「いい加減ネタが尽きてきたし、これ以上に引き延ばすのは何のためにやり取りをしているのかがお互い分からなくなるのでは?」

ここで、私はほぼサイコロを振る時のような気持ちで一緒に行きませんか、と送った。

返事は快諾であった。

その後、会うまでの日は好きな小説や音楽、周りの人のことなどについて話して場を繋いだ。

相手に取り入るためなら、「彼女」の好きなバンドの曲をいくつか聞いて感想を述べることなど労力のうちに入らない。

 

ファーストコンタクト

そして約束の日がやってきた。

待ち合わせの20分前に駅に着いてしまった私は、休まらない気持ちを鎮めるために遠くを見ていた。

相手が来るか否かについて不安を抱えるのは、マッチングアプリに手を出した男が背負う業である。

一応、当日になって「彼女」から先んじて交換していたLINEは何回か飛んできていたものの、出会い系の中には当日にまでメールをしながらすっぽかすという手の込んだことをする人もいたので、実際に会うまでは当日のメッセージなど何の救いにもならなかった。

今のところtinderですっぽかされたのは↓の一件だけだが(完全に自爆)、慣れないものはいつになっても慣れないものだ。

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永劫とも思えるような時間から、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ(神よ、神よ、なぜ私を見捨てたのですか)」と切なげに呟く練習でもしようかな、と思い出したその時、隣の方から声がした。

もしかして、風見さんですか?

すっぽかされずに済んだ瞬間である。

目がぱっちりしていて可愛らしい。

 

男女の交渉と駆け引き

クリムト展を堪能した後、夜も上野で食べていきましょうという話になった。

「彼女」曰く、イマイチな人であればクリムトだけ見て帰ろうかな、と思っていたとのことなので、どうやら私は第一の関門を突破したようだった。

選んだのはドイツソーセージとクラフトビールやワインが飲める店だった。

店内はナチュラル調の装飾がされ、個室ではないもののガヤガヤしておらず、隣の席の話し声がギリギリ聞こえないくらいの離れ方であった。

端的に言って雰囲気がいい。

隣の席に男女のカップルが座ったのが見えた。話している雰囲気から、彼らも今日会ったばかりだというのが見て取れた。

「彼女」と話した内容は今までのアポで散々繰り返した流れの反復である。

クリムト展の感想に始まり、どんな仕事をしているか、周りにいる人がどういう人か、家族に対してはどういった心持ちでいるのか。

心が歪むことなく成長した人間の来歴がそこにはあった。実に素晴らしいことである。

徐々に恋愛の話に踏み込み、セクシャルな話題も小出しにしていく。

「彼氏にするならどんな人がいいの?」

私のことを一番好きでいてくれる人

「最後にしたのは?」

えー、言わなきゃだめですか。社会人になってからはしてないですけどー

 

こういう時に大事なことは2つある。

1つは、表情を変えないことだ。

にやけるでもなく、真顔でもなく、今日の天気を聞くかのような調子で何気なく。

何人もの女性と会ってようやく、そういうことが出来るようになった。

2つ目は、どうでもいいと思うことだ。

目の前の女性に嫌われようが、自分は全く傷つかないと心の底から信じること。

自分には目の前の1人しかいないなどと、清水の舞台から飛び降りるような調子で臨むから恐ろしいのだ。

どうせ並行してやり取りしている人はあと2,3人いるのだし。

そう思うと心は随分と楽になる。

 

と、ここまで話をしてみたものの、実はこの日には行為に及んでいない。

彼女の提案で2軒目に行った後、とりあえず私の方から誘ってはみたものの、家が遠いからという理由で割と強めに帰る意思表示をされたため、「次の人でも探すか」と思った私はそのまま帰ることにした。

 

ところが、帰りの車中でもLINEのやり取りが続き、一週間もやり取りが続いた頃、彼女の方からまた会いたいと連絡が来た。

思えば相手の方から会いたいと言われるのは初めてだったので、これは強めに関係を結んでおく、つまるところ恋人の関係を構築するのも一つの手だな、と考えた。

2度目のデート、私はとあるバーを選ぶことにした。そこは以前にも行ったことがあり、料理も酒も雰囲気もいいことを知っていたからだ。

バーテンダーが場を離れたのを見計らって私は言う。

「大事なことだから酔ってしまう前に言っておきたいんだけど」

なんですか?

「付き合ってみませんか」

考える素振りを見せる「彼女」。「彼女」を横目に酒に口を付ける私。

こんなに平静な気持ちでいられる告白があるんだな、と我ながら感心した。7割くらいの勝算があると踏んでいたからだ。

よろしくお願いします

人間性の一部を獲得した瞬間である。

店を出て歩きながら私は言う。

「素直に嬉しいよ、彼女が出来たのは初めてだからさ」

今まではどっちつかずな関係が多かったんですか?

「そんな感じだね」

ひどい奴だな

嘘は言っていない。一時期、彼女でもなく友達とも言い難い関係の女性の知り合い(↓この人)がいたのだから。

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ただ、どうやら彼女は私がこれまでセフレしか作ってこなかったと勘違いした様子だった。それはそれで都合がいい。

余裕がないと思われるのも癪である。

この日は日曜だったので、明日も仕事があるということで行為には及ばず別れを告げた。

 

幼年期の終わり

さて、運命の日がやってきた。

 「彼女」が行きたいと言ったTeam Laboの施設で「tinderでよく見る『映える』系のプロフ画像はここで生産されているのだな」という感傷に浸って数時間後。

私は酒に少しふらつく足取りで「彼女」の手を取り、新宿のラブホ街へ向かった。

 

本当にするんですか、ラブホには行ったことがない、今日はちょっと危ない日というか……かなり久しぶりで、いや、別に風見さんのことは嫌じゃないけど……

 

と言葉を重ねる「彼女」を見て、これが典型グダというやつか、と合点した。

女性が自分を軽く見られたくないと本能的に感じるがために、Noを提示する現象。

だが、手を引く私の動きに、「彼女」から何の反発もなかった。

私は問う。

じゃあ、キスなら? そう、でも他人に見られるのは嫌でしょ。

こうして10分くらいグダッた後、私たちは部屋に入ることになったのだった。

 

初めて入るホテルの部屋に、テンションが上がる「彼女」。

これでAVを見るのは贅沢が過ぎないか? と思わずにいられない大画面のモニターに、扉が透明なガラス張りの、ジャグジー付きの風呂場。風呂場の照明のスイッチを入れた途端、淫らな雰囲気の桃色になった。

互いに上着をハンガーにかけ、ベッドの上で服を着たまま身体をまさぐり唇を交わす。

徐々に服を剝いでいき、下着姿になった「彼女」にどうして欲しい、と問う。

首を舐めて」という乞いに応えて執拗に舐めてやる。

徐々に「彼女」の息が上がり、声が漏れる。

時間間隔がふやけてあいまいになった頃、 彼女は言った。

こんなに長く舐めてくれる人初めて……

安心してほしい。私も女の首を舐めるのは生まれて初めてだ。

童貞だから加減が分からないんだよ。

気をよくした私は「彼女」の胸の方に指や舌を這わせたが、くすぐったい、と返すばかり。

南無三、私がこれまで摂取してきたアダルトコンテンツの描写はやはりあくまでもフィクションでしかなかったということだろうか。 

私の中の冷静な私が答える。

それ以外の何者でもないだろ。サタミシュウの小説は忘れろ。

童貞だった私は、胸では感じず、首で感じる「彼女」のリアリティに打ちのめされるばかりであった。

これで秘所に触れても何もなかったら、サレンダーもありうるな(何に?)、という考えがよぎる。

縦に走った筋を人差し指と中指で開き、恐る恐る舌を這わせる。

本当にこれであっているのか? と疑念を抱きながら舌を這わせるのは、未開の地の夜闇を、カンテラ1つのみで歩くのに等しい。ただ、1つだけ違うのは、夜闇では物音を立てぬように歩くが、今直面している「彼女」に対してはそうではないということだ。

水音をわざと立てるたび、「彼女」の身体が震えている……気がする。本当のところは「彼女」以外知る由もない。

だが、一つだけ確かなのは、繰り返すたびに大きな反応が返ってきていることだった。

そして、その時の訪れは彼女の口から告げられた。

入れて、と。

私は頷き、これまで私の手しか相手のいなかった孤独な息子を取り出した。

彼女が驚いた様子で言う。

大きくないですか? 入るかな……

「他の野郎のと比べたことがないからな……。ただ、前にその辺の自販機に売ってるようなゴムを付けようとしたらパッツパツで、志茂田景樹の脚みたいになったんだよな……」

志茂田景樹……?

「ファッションの一環で網タイツ履いてる小説家なんだが」

あっ、思い出した。ちょっと、笑わせないでくれます?

 

「彼女」から「そこじゃない……」と言われて数回、遂にその時がやってきた。

室内のBGMを凱歌とし、自分の身体が前へ滑っていく感覚。

他者の侵入による圧迫感に苦悶の声を上げる「彼女」。

焦らず、ゆっくりと進んでいき、「彼女」の深奥へ達した時、私の頭の中には、ただ一つの思いだけがくりかえしくりかえしこだましていた。

 私はもはや童貞ではないのだ。

 

呵々大笑

挿入が終わった後、「彼女」には私のサイズに慣れてもらうために、じっと動かずにキスをしたり、首を舐めたりしていた。

すると、「彼女」が段々と慣れてきたと言うので、私はその言葉に従い、少しずつ動き始めることにした。

そうして行為に及び続けること優に30分は過ぎた頃だろうか。私はある思いに頭を巡らせていた。

 全然イク感じがしない……。

「彼女」が、ではない。私の方がだ。

 「彼女」の方は、騎乗位でなにやらいい角度を見つけたらしく、一心不乱に腰を振っていて、私もそれに合わせて動いてみていた。

そして、「彼女」は時折かすかに声を漏らしながらビクビクと身体を震わせている。

私の方はと言えば、まんじりとも快感の波が上がってくる気配がなく、ビクビクと震える動機が全くない。

これまで一人遊びをし続けたことを本気で後悔しかけた。

そんなことを考えている内に、自分のやっていることが段々可笑しく感じられてきて、 あるところで大笑いしてしまった。

後に「彼女」は語った。

急に笑い出したのマジで怖かった

ちなみにその日は結局、達することがなかった。

「彼女」には申し訳ないな、と思っている。

 

 人の真似事

それからというもの、私たちは初めのうちは週1とか2週に1度というスパンで逢瀬を重ねていたのだが、その中で私はある思いを抱くようになっていた。

人間の真似事をしている、と。

私のこれまでの楽しみと言えばせいぜい、アニメや書籍でも消費して、したいときに散歩と飲酒をするくらいのものであり、誰かと一緒にどうのこうの、というのは基本的に埒外のものだったのだ。

恋愛は時間と金がかかる娯楽だ。

年端も行かない少年少女であれば、学内で毎日のように顔を合わせて、日常の些細なことで何か楽しみを覚えるのかもしれない。

だが、仕事をしていれば話は別だ。休みの都合を合わせる必要はあるし、ファミレスで何時間もとりとめのない話をすることもない。

関係性をもたせるには、相応の心持と余裕が必要であり、なにより私には心が欠けていた。

誰かと共にいるには社会性がいる。それが友達でもない赤の他人の異性であればなおさら。

別に、苦痛ではなかった。ただ、演じているという意識が強かった。

元々、打算的に告白して得た関係性だったから、演じている感覚がするのも当然という話なのだが。

それでも、袖振り合った仲なのだから、他者に時間を使わせて会う以上、「彼女」が私から得られるモノが何かあれば、等と傲慢な事を思ったりもした。

だが、自分が供することの出来るモノが、相手の求めているモノとは限らない。

「彼女」と会うたびに、これまで己という器の中に僅かながらも徐々に注いできた水が減っていくような感覚がした。

私という人間の底が知られるのも時間の問題だった。

決まった相手がいなかった頃は、思索や教養を深める一環で文学作品を読み漁ったりしたが、気づけばそういうこともしなくなっていた(ちなみに、何人かに会った経験からだが、なぜか文学が好きな女性には太宰治の「斜陽」が心に刺さっているケースが多い)

決まったところに留まれば留まるほど、人間としてのレベルが下がっていくような気がした。

このままではいけないな、という考えが強まるにつれて、私が得た関係性に対する思い入れも薄れていった。

もしも「彼女」と別れたら、という未来に対する恐怖は全くなかった。

なぜなら、多少時間がかかろうとも、また同じように相手を見つけるだろうから。

そう考えると、1か月近く会わなくても全然平気になってきて、こうなったらそろそろ決着をつけないとな、と思った辺りで「彼女」から終わりの提案が来た。

メッセージの文面は既に忘れかけているが、確か、「他に好きな人が出来たとかではないが、今は心の余裕がない」といった内容だった。

「いいよ、ここ最近は無理をしている感じがしていたから。短い間だったけどありがとう」といった内容で返事をした。

「彼女」からは「本当に楽しかった。最後までわがままでごめんね」と来た。

円満に別れただけ合格点だろう。私は「彼女」のアカウントを非表示にした。

 

今回の件で分かったのは、私は相手にとって、「心の余裕がない時に拠り所となる人間」ではなかったということだ。

ひょっとすると、私が心の奥底で「彼女」のことを強く求めていなかった姿勢が、知らず知らずのうちに分かっていたのかもしれない。

付き合っている中で、「彼女」との将来を想像することは全くと言っていいほど出来なかった。

つまりは、遊びだ。遊びで人と関わる人間は、自らもまた遊びの範疇での関わりしか持てない、ということなのだろう。

このことはいつか、将来の私にとって大きなビハインドをもたらす時が来ると思う。

私はあまり、他者に縋られるのは好きではないし、ましてや自身の存在意義を他者に依存している人間の厄介さを経験から骨身に沁みているので、仮に拠り所にされたとしても応えるかは分からないが、ただ、技術として拠り所になれるのとなれないのでは大分違う気がするので、今度はその辺りに心を配ってみたいと思う。

 

ここまで滔々と書いてきてしまったが、人として新鮮な経験で楽しかったのは事実なのと、皆が皆、私のような感覚を得るわけではないと思うので、この記事を読んでくださった諸氏には是非とも、道を歩んでみてもらえたら、とささやかながら願っている次第である。