話の早すぎる女は逆に怖い
季節の挨拶
紫陽花もカラカラの押し花の成り損ないのようになってきた初夏の暑さを、皆様はどのようにお過ごしだろうか。
私はと言えば故あって、tinderの右スワイプを少しサボり気味にしていた。
4月の終わりにtinder plus1年分を購入してしまい、まだ4分の1も元が取れていないのでこれはあまりにもディスアドなのだが、気が乗らない時にやると、女性とのやり取りに気力が続かなくなる。
具体的に言うと、アポを持ち掛けた時に2週間後ならOK、といった条件付き了承を得た時に気力が続かなくなり、これまでにかけた労力をドブに捨てる羽目になる、といった状況に陥る(3回くらいやった)。
では、仮に2,3通のメールで明日にでも会うことが確定したら?
今回はそんな女性とのアポを巡る物語だ。
ボンドガール級のスピーディーさ
ことの起こりはPCMAXでだった。
私はいつもtinderでマッチした女性と会うのだが、過去にはYYC、PCMAXといった昔ながらのサイトに登録して雀の涙ほどのポイントを買ったことがある。
特にPCMAXの方はあと100通くらいメールを送れそうな余力が残っているので、暇を持て余した時に掲示板などを覗いては、明らかに業者の気配がする書き込みや、向こうから送られてくるメールを目にし、時にこちらからメールを送り、案の定の金銭交渉を匂わす返事が来た時には舐めた生き方をしているなぁ、と笑うことがある。
とはいえ、私も100パーセント外れる馬券を買うほどマゾではないので、少しでも目のありそうな書き込みを選ぶようにしている。
鍵は2つ。
1.タイトルが素人が書いたとは思えないかどうか
2.本文がシンプルかどうか
タイトル・本文共にシンプルな方が、あからさまな業者を弾けると思う。シンプルなものを選んだからといってホ別2万を提示されないとも言っていないが。事実、8割がた2万くれと言われる。
残りの2割はというと、メールアドレスを交換しようという持ち掛けである。ちなみにこれもアドレスを交換した後に2万を要求される。交換し損である。
tinderでそれなりの手間をかければ、その人の話が聞ける上に飯代とホテル代を足しても2万でおつりがくるのに払うわけがない。
今回もその手合いだろう……と思っていたのだが様子が違った。
掲示板には、休日で暇しているから会ってくれ、というシンプルな内容。
私はすかさず「はじめまして。会うこと前提でメールしませんか」と送信し、「いいですよ、よろしくお願いします」と返ってきたので、「明日とかでも大丈夫ですか」と送る。
相手「明日大丈夫ですよー!」
先方、まさかの了承。話が早すぎる。ボンドガール級のスピーディーさだ。
しかも、いままで二言目には聞いていた金の話が出てきていない。
これには私もネヴィル・シュートもかくやと言わんばかりの破顔をした。
寒気漂う春の訪れ
当日になってとある感情が私を襲った。疑念である。
もし話の早すぎるボンドガールが美人局だったら? 行為の最中に身ぐるみを剥がされて私は終わりだ。故に自衛をしなければならない。
考えるべきポイントは、容易に身動きが取れない状態にあっても、出来るだけ早く対処出来るか否か、だ。
かけている眼鏡を奪われる・割られる等して視界を妨げられるのを防ぐため、コンタクトをつける。
身バレを防ぐ・怪我を負わされた・手早く逃げるために金が必要になった時を考える。
故に保険証・クレジットカード・キャッシュカード・身元や住居が判明しそうなものを悉く財布から引き抜いてカバンの別の場所にまとめておく。
行為をするときには出来るだけ着衣のままでいよう、などと考えること数時間。
とうとう出かけなければならない時間がやって来た。
ロクにコミュニケーションを取っていない人間とのアポはいつも、諦観まじりのものになる。何も思い入れがないからだろう、普通にすっぽかされるし、そんなことに一々落ち込んでいては心が持たないので、私の方も全く動じなくなった。
念のため、当日は予定通りで大丈夫か、とメールを送る。
割とすぐに「大丈夫ですよ」と返信が来た。
が、ほどなくして私は再び疑念の底に叩き落とされることになる。
賢しい迂遠なコミュニケーション
女性から、こんなメッセージが飛んできた。
「今日、どんなつもりでいます?」
どうもこうもないだろう、適当にお茶でもした後にホテルにでも行くつもりだ。
しかし、脳裏に一つの疑念が閃く。これはひょっとして何かの罠ではないか?
こちらから性行為を持ち掛けたと分かるメッセージを出したが最後、いつものやり取り(ホ別2万)が発生するのでは。そうでなくともそれをダシに何か危険な目に遭うのでは?
なぜオレはこんなことに頭を使っているのだろう、と思いながら、私は「とりあえず、お茶とかご飯とかでもいいですよ」と返した。
すると、「お茶かぁ」とこれまでのメールに見られた口調とは打って変わりぞんざいなメッセージが飛んできた。
露骨にガッカリするな露骨に。出来ることならこっちもはっきり書いてやりたい。
そこで私は、「別にお茶でなくても平気ですよ。どこか適当なところに落ち着いて休憩するとか」と送った。
すると、「どこか? とりあえず時間通りには着きそうですけどどうします?」という妙に察しの悪いメッセージが飛んできた。
もうこれはまず会ってからどうこうするしかない。そう考えた私は、「とりあえず予定通り待ち合わせしましょう! ところで、どんな服装してますか?」と微妙に話題を逸らすことにした。
結局、これ以上メールが返ってくることはなく、彼女らしき人物も見当たることはなかった。
ところで、待ち合わせ場所では別の「いかにもマッチングアプリでマッチして今日初めて会います」といった雰囲気のカップルがいて、「オレの分も幸せになれよ……」という気分になった。
反省会
こういうことがあると、必ず思い出すことがある。
それは、「女とやり取りする時にはアホのフリをしろ」である。
こちらが何か相手のことを疑って賢しい真似をすると、コミュニケーションがぎこちなくなって破談になる。
判断力を復活させるのは、相手が勝手に2万くれと言ったときと、事前に行くホテルを指定してきた時だけでいい。
まぁ、今回は私が勝手に疑心暗鬼になって自爆しただけなので、これをお読みの諸兄にはいい具合に頭を空っぽにして女生徒のやり取りを愉しんでほしいと思う。
それでは!