徒然すぎて草。

ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん

自ら用意した据え膳を、自ら叩き割った話

季節の挨拶

桜も散ろうというこの頃、皆様はいかがお過ごしだろうか。

私はといえば相変わらずで、気の向いた時にtinderで女の子の写真を右スワイプ(LIKE)する日々であった。

この記事を読んでいる諸兄はおそらく、tinderなんてどうせ節操なく女の子をLIKEするんだろ、と思っているであろうが、実際そうだ。

こと出会い系において、男が女を選り好みする権利は皆無といってもいい。

左から流れる画像を右に送れ。さすればマッチが与えられん。

私はそうすることによって、6人目の女と会うこととなった。

この記事を読む諸兄におかれましては、次の一節を心に留めてもらいたい。

 

このように、熱くもなく、冷たくもなく、なまぬるいので、あなたを口から吐き出そう。

――ヨハネの黙示録 第3章15‐19節

 

何事も、中途半端が一番悪い。

 

マッチ&アポに至るまで

プロフィールを見た瞬間、この人には会ってみたいな、と思った。

仮に、彼女を智子さんとでもしよう。

彼女が特別美人だったか? 整ってはいたがそこではない。

私が興味を惹かれたのは、職業:物書きとなっているところだった。

大学の頃から金にならない小説をチャラチャラと書き、今はなぜかこうして出会い系レポなる面妖なブログを書いている私にとって、文章を書くことを仕事にしている人間というのは天上人に等しい。

そうした天上人が何を思い、どのように過ごしてきたか、生きていくのか、是非とも話を聞きたいと思った。

しかも、彼女の好みが「知的な男性」ときた。

これは一橋卒の溢れるインテリジェンスでどうにかするしかあるまい。

私は意気揚々と最初のメッセージを打ち込んだ。

 

風見「もしかして、文章で生計を立てている強者の方ですか?」

 

最初のメッセージはインパクト強めで、されど不快にさせない塩梅で。

今見ると自分でもどうかと思うが、智子さんは返事をしてくれた。

話した内容をまとめると、以前に書いた作品が出版社のコンテストに通った縁で電子書籍を出した経験があり、普段はライターの仕事をしながら小説の大きな賞を目指しているのだという。

すごい。それしか言葉が出なかった。同時に、文章としては何の功績も出していない自分をひどく恥じ入った。

だが、せっかく存在する物書きという共通点を活かさない手はない。

私は自らも物書きであることを明かしつつ、好きな本のジャンルや、最近読んだ本で何が面白かったか、などを話した。

そこで、智子さんは本田孝好の『dele.』という小説をお勧めしてくれた。

 私は話を聞いたその日の帰りに、本屋へ寄って即座に読むことを決めた。

女に取り入るためなら、薦められた本の一冊を読むくらい何の苦労もない。

高々700円の出費だし、本を読むこと自体はむしろ好きだ。

そして何より救いだったのが、薦められた『dele.』が中々楽しめた、ということだ。

『dele.』は、「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に変わってデジタルデバイスに削除する」という生業の二人組が様々な人々の思いと関わっていく物語だ。

文章はそこまで硬くなく、わずかに伊坂幸太郎を思わせる軽快さである。

 もし、気になったら、上のリンクから覗いてみてもいいと思う。

 

この読書作戦は中々に効果があったようで、他愛もないが、しかし盛り上がりは確かに感じられる会話が続いた。

休日に何をしているかだとか、運動はしているかとか、背は高いか低いかとか……そろそろ頃合いだろうと思い、『お茶でもしませんか?』というメッセージを送ると、期待した通りの返信があった。

当たり前の話かもしれないが、まず共通点を見て、次に心を開いてもらうことをパターン化できれば、予定の合う合わないは別にして、会うことは了承してもらえる、そんな感じがしている。

 

店選び@新宿

待ち合わせは新宿、平日の夜に決まった。

問題は店をどこにするか、だった。

新宿でよさげな店を探そうとした人は感覚で分かるかもしれないが、いわゆる歓楽街である歌舞伎町をメインに店を探すと割と痛い目を見やすい。

ゴジラのいるTOHOビルの前の通りなど、地雷原もいいところだ。マシな店は磯丸水産しかないと思った方がいい。

いい雰囲気の店・おいしい店は割と新宿駅から離れた、小滝橋通りであるとか、一駅離れた(とは言っても歩ける距離だが)新宿三丁目辺りを探った方が安牌である。

今回店を探すにあたって、理想としたのは、料理がそこそこおいしい、個室の店だった。

となると、磯丸水産は選択肢から除外される。

かといって小滝橋通りや三丁目の方へ足を延ばすのも、休日ならいいが平日は厳しい。若干遠いのだ。となると歌舞伎町からやや離れた辺りが順当だろう。

そう思った私は、食べログぐるなびにだけでなく、よく分からないレビューサイトまで引っ張り出してみせの調査を始めた。

情報は多角的に見るのが大事だ。

例えば、食べログで星3の店があったとしても、Googleのレビューで星2.4程度だったら、そこはやめた方がいい。今のは、そんな店を選びかけた私への戒めである。

 

結局、選んだのは歌舞伎町の外れにある「カルボナード」という店だった。

 

tabelog.com

ここも星3ではあるのだが、酷評らしい酷評がなく、他のレビューサイトも平和だったので信用できるだろう、と判断した。

個室は扉で仕切られ、周りの雑音で相手の話が聞こえなくなる心配もなさそうであり、料理もよさそうだった。

 

実際に会う

今回は特に苦労することなく智子さんの姿を見つけることが出来た。

前回(↓)はとても大変だった事を思うと大きな違いだ。

 

persona-kaza310.hatenablog.com

 やって来たのは、春、桜の精霊のような人だった。白のスプリングコートの下に濃い赤のニット、花柄のスカート。薄いピンクの口紅に、赤みがかったアイシャドー、桜の花をモチーフにしたと思しき長いイヤリング。

端的に言って、美人だな、と思った。彼女に実際会う前に、何枚かの写真は見ていたのだが、そこからイメージした顔より綺麗に見えた気がした。

店へ向かう道すがら、智子さんはこんなことを言った。

 

智子さん「本当に同い年ですよね? なんか、2つくらい年上に見えます」

風見「よく言われます。この前、自分より2つ上の人に、2つ上だと思われてたんで」

智子さん「でも、私も似てますよ。町中歩いていて、人妻専門風俗のスカウトされたことあるんで」

風見「あー」

智子さん「あー、って(笑) 目元に色気があるって言われるんですよね」

 

なんとなく、分かる気がした。隣を歩く彼女の目つきは、アイシャドーの効果もあるだろうが、確かに色気を感じさせたのだ。流石に老けているとまでは思わなかったが。

また、智子さんは私について次のように言及した。

 

智子さん「風見さんって、高橋一生みたいな感じしますね」

風見「んー、朴訥とした感じがそう思わせるんですかね」

智子さん「朴訥、って自分で言っちゃうんですか?」

風見「え?」

智子さん「え?」

風見「眼鏡を外すと羽生結弦チックだって言われるんですがそれは」

智子さん「あー、言われてみると確かに。眼鏡、あるのとないので印象凄い違うから、人によって使い分けた方がいいですよ」

 

とても参考になった。これからどんどん使い分けていこうかと思う。

 

店内にて

店の中に入って、何を話していたのか、正直よく覚えていない。

というのも、いつもなら女の子にある程度会話の主導権を握ってもらい、学生時代や職場、将来のことなどについて話してもらうのだが、今回はなぜかそれが出来ず、私がメインで話すことになってしまった。

とはいえ、会話の主導権を握ってもらおうとしなかったわけではない。話をしてもらうようにいくらか仕向けたのだが、そうするためのとっかかりの話し方が、彼女にはどうやら面接を受けているかのような気分にさせられたらしく、あまり情報の開示を受けることがなかった。

そして、私も場を繋ぐために話すので、会話の内容が印象的なものしか頭に残っていなかったのだ。

 

確か、店に入ってすぐに、智子さんから「小食ですか?」と聞かれた。

私はすかさず、「あまり食べないね。一時期、仙人を目指していたことがある」と答えた。私は一時期、あまりに働きたくなかったので、「飯を食わずに生きられたら働かずに済むのでは? じゃあ徐々に食事を抜いていって段階的に仙人になろう」と思った時期があったのだ。結果として、雨が降っただけで鬱っぽくなるだけだったので仙人修行は止めたのだが。

すると、智子さんは「私の元カレも仙人目指してた人なんですよね……」と言い出した。どういうことだ。この現代日本において私の他に仙人を目指した男がいるとでも言うのか。

彼女に言わせると、その元カレというのは、社会や科学技術に頼らず、自給自足で生きる人間になりたかったのだそうで、そうした人間を仙人と呼んでいるらしかった。

(それはもはや仙人ではなく杣人(そまびと)では?)と思ったが口には出さなかった。

仙人を目指す人間にも様々な種類があるらしい。社会を離れ、自給自足を志す者もいれば、私のように超人的な存在を望む者もいる。おそらく、両者の違いは生きることに前向きか後ろ向きか、の姿勢に現れているのだと思う。生きることに前向きならば、社会性を取り払って自給自足の生活を志すことも出来るだろう。生きることに後ろ向きである私は、生きるために必要なことを人生から切り離し、止まった存在として在ることを望んだ。そう出来るほどの強さもなかったのだが。

 

次に、彼女の仕事について話した覚えがある。在学中に出版社の賞を取った彼女は、そのポテンシャルを見込まれて、ライター系のベンチャー企業に採用されたのだという。

だが、その職場というのが誰も一言も発しないらしく、一緒に食事をすることもなく、水を飲む音すら気になるレベルだった、と言った。

言った、というのは、今の彼女は自宅勤務をしているからで、MTGの時だけ出社する、という形態にしているのだという。

そんな殺伐ともいえる職場環境で出会いがあるかといえば、やはりそんなことはないらしい。そこで、tinderでワンナイトの出会いを繰り返している友達の話を聞いて、興味を持って始めた、とのことだった。

とはいえ、智子さん自身にワンナイトの希望があったかといえば、おそらくそんなことは殆どない。純粋に、どんなものか興味を持って始めた、ということだったのだと思う。

tinderで会うのは、私で2人目とのことだった。1人目はあからさまにヤリ目だったらしく、がっかりした感じを見せていた。智子さんは、私について「全然そんな風にチャラついて見えない」と語った。

今思えば、ある程度、信頼をしてくれていたのだろうか、と思う。

 

次に、本の趣味や自身の作風について語った覚えがある。

智子さんが好きなのは、ミステリ、恋愛とのことで、ファンタジーやSF、古典(近代以降)作品を読む私とはことごとく趣味が合わなかった。

ただ、小説の作風として、男女のキャラをどうやって造形するか、という話では少し盛り上がった記憶がある。私は男女問わず光の面と暗黒面のどちらかを極端に持ったキャラクターを作りがちなのだが、智子さんは敵側に男を配置することが多い、とのことだった。

今思うと、今どんな小説を書こうとしているの、といった話をもう少しすればよかったと思う。会う前は、そんなことを考えていたような気がするのだが。

 

次に、恋愛について語った覚えがある。

智子さんは、中高は勉強ばかりであまりイケていなかったが、大学時代に色々と工夫したのだという。とはいえ、入った大学そのものの空気感がチャラかったのであまり馴染めず、朝早く登校して授業を受け、誰とも話さずに帰る、という生活を続けていたらしい。

そして、他校の文化祭に行って、好いと思った人と交際していた、と語った。

東大生2人と例の仙人、その他もいた素振りを見せつつ、知的な感じがして口下手な印象のする男、という一貫した好みがあったという。

ちなみに、智子さんによると私の話し方は「めんどくさい感じですけど、私は好きですよ」という部類だったようで、「私以外の女の子にあまりウケないと思いますけど」とも付け加えられた。私は調子に乗った。

調子に乗った私は、これまでの恋愛遍歴を語りだした。

とは言っても、私に彼女がいたことはこの24年間で一瞬たりともない。データベースを参照しようにも値がnullではどうしようもない。

だから、マッチングアプリ絡みの話をすることにした。

 


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 この話をしたらかなりウケた。が、調子に乗って、その女の子に関することをベラベラと話過ぎたおかげで智子さんの機嫌を損ねた。

 

智子さん「私、アルバイトで婚活相談所で働いていたことがあって、それまで一度も女性と話したことがないような人と疑似的にデートして男性を採点する仕事してたんですけど、今みたいなことされたらマイナス10点つけてます」

 

私は反省するべきだった。

私は取り繕うようにこう言った。

 

風見「でも、その子とは音信不通になってメッセージに既読すらつかないから、もう死んだものだと思ってるけど」

智子さん「ちなみにそのダーツの話って、どれくらい前なんですか?」

風見「3か月前だね」

智子さん「最近じゃないですか……それだったら、私のことなんて霞んじゃいますね」

風見「いやいやいや、もう終わった物語だから。ページが開くことはもうない」

智子さん「でも、未練あるんじゃないですか? 普通、終わったと思っている人のこと、そんなに話せないですよ」

風見「そういうものなのか? まぁ、ダーツの子は無事に生きていればそれでいいと思っているけど」

 

私は本当に反省するべきだった。

空気が微妙な感じになってきたのはこの辺りだったのではないかと思う。

 

その後は確か、手の指について語った覚えがある。

私の手は、眼鏡を外した時の羽生結弦もかくやという顔に似合わず、指が短くて関節がゴツゴツしていて、出来るだけ良く言えば武骨、悪く言えばずんぐりしていて、そのことが若干コンプレックスだった。

智子さんはまさにそのことについて言及し、私がコンプレックスを抱えている旨を明かすと、「私もそんなに指がすらっとしているわけじゃないんですよ」と言い、実際に触れた私は、「あー、確かに」と言ってしまった。

すると、智子さんは心外そうに言った。

 

智子さん「素直すぎる! 普通、ここで『あー』って言います?」

風見「アッ、ごめん」

智子さん「こういうのは『そんなことないですよ』とか言うものですよ」

風見「本人が自覚している所については、無理くり否定しないのが誠実さだと思ってる」

智子さん「誠実さの観点がズレてます! 私いままで、1,2時間の間にこんなに男から傷つけられたことないんですけど」

風見「申し訳ない、地雷原でタップダンスしたみたいで」

智子さん「本当ですよ! あーもうカシスミルクもなくなっちゃったし酔いも醒めてきちゃったしどうしてくれるんですか。あと5点マイナス入ったら帰りますからね」

風見「と、とりあえず何か頼みましょうか……」

追加のドリンクを頼む。私は言葉が続かなかった。

智子さん「じゃあ、何か私のことについて褒めてください」

風見「(頭が真っ白になって言葉に詰まる)」

智子さん「一言も出てこないってどういうことですか?」

風見「アッ、いや、今日、すっごい気を遣って来てくれたことは分かってるし、メイクもイヤリングもネイルも……」

智子さん「気を遣っている、って言い方はいや。可愛いとか綺麗とか、そう思っているなら素直に言ってください」

風見「ああ……ごめん、綺麗だと思っているんだよ。全体的に春めいた格好で、目元も素敵だと思う。こうなったら白々しいかもしれないけど。それに、気を遣っているっていうのも、誉め言葉のつもりだったんだが」

 

この後は、気を遣っている、という言葉に関する私の思想を語ってしまった。

私は元々、髪も眉も服装も、活動に支障がなければどうでもよくて、それでも社会に生きる以上は人並みにみられるために「気を遣う」必要があると考えていた。

つまるところ、私にとっての身づくろいとは他人本位の面倒なものでしかなく、極論を言えば、自分以外の人間が全て死に絶えれば、手間をかける必要はなくなるとまで考えている。

私は人間嫌いだった。私自身のことも好きではない。認められないのだ。

智子さんは、その考え方は違うと言った。

「綺麗になりたいとか、そういう自分が好きだとか、そういうものじゃないですか?」

何も間違っていないと思う。

彼女は自身を、人間が好きだと言った。その言葉に偽りはないと思われた。

そして、彼女は私を、「女が嫌いとか、怖いんじゃないですか?」と言い、私はそれを否定したのだが、本当のところは私にすら分からない。

 

自ら用意した据え膳を自ら叩き割った話

話している内に、微妙になりかけた空気も若干回復し、智子さんはなぜか私に眼鏡を外すよう命じたので私はそれに従った。

私はかなりの近眼で、眼鏡を外すと向かい側の智子さんの表情がほぼ見えなくなるので、コの字型になっているソファの隣に行っていいかと問い、彼女はそれを承諾した。

そんなとき、互いの脚が触れて、そのまま智子さんの方から離れていく気配がなかったので、もうちょっと距離を詰めても平気かしら、と私は思った。

私は眼鏡を外した自身の姿を私の携帯の写真に収めてもらうのをとっかかりに、ツーショットで自撮りしようと持ち掛け、彼女の肩に手を回した。

その後は適当に手や髪を触れたりしながら距離を詰め、最後にはキスまでして私は「場所を移そうか」と言った。

彼女は嫌がる素振りを見せることなく、腕を組んで共に店を後にした。

が、この後が問題だった。

レストランの個室で話していた私に、歌舞伎町の凍てつくビル風が容赦なく吹きすさぶ。

あまりの寒さに歯がガタガタ言うほど震えた私は思考力を奪われ、ホテルをじっくり探すこともなく、その場にあったカラオケ館に入ることを提案してしまった。

こんなことがあるだろうか。

まるで自ら掘った穴を自ら埋めるような所業。

こうして、なし崩し的にカラオケボックスに入った我々は、2曲ほど一緒に歌い、暗くした室内で時間終了までただただイチャついた。

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が、カラオケボックスで最後までするのはやめようということになり、私もなぜか頑なに終電で帰るつもりでいたので、本当にただただカラオケボックスでイチャついただけで全日程が終了した。

今冷静になって考えてみれば、適当に宿泊して始発で帰って仕事に出ればよかっただろ、と当時の自分をひっぱたいてやりたい。

 

ここでもう一度、聖書の一節を思い出したい。

 

このように、熱くもなく、冷たくもなく、なまぬるいので、あなたを口から吐き出そう。

――ヨハネの黙示録 第3章15‐19節

 

後日談

帰った後、智子さんに2通ほどメッセージを送ったが、今に至るまで既読スルーされている。

2回目はないな、と思われたのだろう。

今考えると、私は目先の人参に囚われて、信頼関係を築くような振る舞いが出来ていなかったのだろうと思い、そのことを後悔している。私はあの日に至るまで、もっと話したいことを用意していたのではなかったか? おそらく、彼女が私に抱いていた期待も裏切った形になったのではないだろうか?

だが、私がこんな殊勝なことを考えているのは何によるものだろうか。欠片でも残った私の良心のなせる自罰的な陶酔なのか、性欲由来の「釣り逃した魚は大きい」という利益勘定だろうか。

今となっては区別がつかない。胃が重くて仕方ない。前者を可能性として考える辺り、救いがない。

 

会う前に教え合ってしまった本名で試しにFacebook検索をしてしまったら、普通に本人がヒットした。

知ってしまったペンネームで試しにTwitter検索をしてしまったら本人が出てきた。

私は恐怖のあまりスマホを投げた。

おそらく、私と彼女の歩む道がこれ以上交わることはない。交わってほしくないとも思う。

過去を消し去りたい。だがどこまでも追ってくることは分かっている。

だからせめて、私の正体に繋がらないキャラクターを作って、これからはそれでもって女性に接しようと思う。

そうすればきっと、私自身が愛されることはないだろうが、少なくとも気分だけは味わえることだろう。